復職支援は「復職率」だけで評価できない――コスト・休業日数・生産性を並べて考える

臨床・専門記事

研究を実務の問いにつなぐ

復職率が高いことと
支援の価値は同じではない

職場に戻れた人の割合だけで復職支援の成果を評価できるでしょうか。

休業日数が長く費用も大きい一方で、復職率は高い。そのような結果が同時に見られたとき、何を成果と考えるべきでしょうか。

今回はインドネシアの労働災害請求データを用いた2026年の研究から、復職率・休業日数・費用・生産性損失を別々に読む方法を整理します。

この記事の要点

  • 労働災害請求11,955件を対象にRTWプログラムと通常ケアを比較
  • RTW群は復職率が高い一方で平均休業日数と費用も大きい
  • 群の背景が異なる可能性がありプログラムの効果とは断定できない

研究の対象と支援の違い

研究者はインドネシアの社会保障機関が保有する2015〜2022年の労働災害請求データを後ろ向きに分析しました。対象は労働災害によって障害が生じた18〜65歳の労働者です。

全体
11,955件
RTW群
1,353件
通常ケア群
10,602件

RTWはReturn to Workの略で職場復帰を支えるプログラムです。この研究のRTW群には医療に加え、職業リハビリテーションや心理社会的支援、職場環境の調整、ケースマネジャーによる連携が含まれます。

通常ケア群でも医療や必要に応じた医学的リハビリテーションは提供されました。ただし職業リハビリテーションや体系的な復職計画は組み込まれていませんでした。

ここで比較しているのは支援内容の異なる2つの集団です。無作為に割り付けた試験ではありません。

費用結果分析で評価したもの

この研究は費用結果分析(Cost-Consequence Analysis)を用いています。複数の費用と成果を一つの得点にまとめず、指標ごとに提示する方法です。

職場復帰率
復職した人の割合
休業日数
Lost Time Injury Days(LTIDs)による休業期間
直接医療費
医療に関する支出の平均値
生産性損失
休業による経済的損失の推計値

職場復帰率だけでは費用負担を捉えられません。反対に支出だけを見ても復職という成果は把握できません。

復職率と費用の観察結果

原著で報告された値を示します。以下は背景が異なり得る集団の観察結果であり、プログラム自体による効果量ではありません。

復職率と休業日数の比較
復職率
RTW群84.0%
通常ケア群20.3%
平均休業日数
RTW群350.3日
通常ケア群214.1日

図は原著の集計値をもとに独自作成。各指標内で縮尺が異なり統計学的な不確実性や因果効果は示していません。

評価指標RTW群通常ケア
職場復帰率84.0%20.3%
平均休業日数350.3日214.1日
平均直接医療費822.50米ドル262.25米ドル
推計生産性損失46,239.60米ドル28,261.20米ドル

費用は原著が2022年の物価・為替を用いて換算した米ドル値。項目の定義が異なるため単純に合算しません。

RTW群では復職率が高い一方、平均休業日数と費用の数値も大きいという結果でした。どちらか一方だけを選んで「成功」「失敗」と決めることはできません。

原著の説明文と数値の相違

原著本文には休業日数や生産性損失が減ったと読める説明があります。しかし抄録と集計値ではRTW群のほうが大きい値です。本記事は集計値をそのまま提示し、休業短縮や費用削減を確認済みの結果として扱いません。

単純な効果比較ができない理由

RTWプログラムには重い障害や複雑な支援ニーズを持つ人が選ばれていた可能性があります。研究者も症例構成の違いを重要な論点として挙げています。

障害の重症度に加え、雇用主の協力や本人の意欲などが結果に影響した可能性があります。請求データだけでは、そうした要因を十分に把握できません。

したがって「RTWが復職率を引き上げた」「医療費や休業日数を増やした」とは断定できません。観察研究の群間差と介入による因果的な効果は区別する必要があります。

実務で設計したい評価指標

ここからは研究の結果ではなく、実務に向けた編集上の考察です。

復職率を報告する前に、少なくとも次の4つの条件をそろえておくと評価の意味が明確になります。

対象者は誰か
障害の程度や職種、元の業務内容、職場の支援条件を整理する
復職をどう定義するか
元の仕事への復帰と業務調整を伴う復帰を区別する
誰の費用を見るか
保険者・雇用主・本人・家族では負担と便益の範囲が異なる
いつまで追跡するか
復職時点だけでなく再休業や就労継続の確認も検討する

この整理はAIやデジタルツールの導入評価でも参考になります。ただし原著はAI導入を検証した研究ではありません。別の領域にそのまま有効性を当てはめないことが前提です。

研究の限界と適用範囲

  • 後ろ向き観察研究であり因果関係を確定できない
  • 群間で障害の重症度や支援ニーズが異なる可能性がある
  • 雇用主の協力や本人の意欲などを十分に調整できない
  • 請求終了後の就労継続や生活の質は十分に評価していない
  • インドネシアの制度を前提とした数値を日本の実務へ直接一般化できない

研究者は今後の選択バイアスへの対処と長期的な追跡の必要性を挙げています。

本記事の情報だけで個人の復職可否やリハビリテーション内容を決定することはできません。本人の状態と希望、職務内容、職場環境を踏まえた個別の判断が必要です。

まとめ

復職率が高いことは重要な結果です。しかし支援の価値を決める唯一の尺度ではありません。

対象者の特徴と復職の定義を確認したうえで、休業日数・費用・生産性損失をそれぞれ読み分ける。この順序が、復職支援を評価するための出発点になります。

原著と編集情報

Kurnianto AA, Amer F, Putri AD, et al. Cost-Consequence Analysis of the Return to Work (RTW) Program for Workers with Disabilities in Indonesia: Health, Economic and Productivity Outcomes. Journal of Occupational Rehabilitation. 2026.

DOI:10.1007/s10926-026-10396-6 / PubMed / 原著全文

参照範囲:公開された原著全文と抄録。研究の観察値とK-Brainの実務的な考察は区別しています。

記事制作・編集:合同会社K-Brain

原著論文の著者と本記事の編集者は異なります。個人による医療監修や研究者の承認を表示するものではありません。