
3分速歩+3分ゆっくりを安全に始める方法
「健康のために歩いたほうがいい」と分かっていても、毎日まとまった時間を確保するのは簡単ではありません。
一方で、いつも同じペースで歩いていると、「これで本当に運動になっているのだろうか」と感じる人もいるでしょう。
そこで注目されているのが、3分の速歩と3分のゆっくり歩きを交互に繰り返す「インターバル速歩」です。
海外では「Japanese Walking」とも呼ばれていますが、最近突然生まれた運動ではありません。日本では、信州大学の研究グループが約20年前から中高年者を中心に効果を検証してきました。
これは競歩でも、限界まで追い込むトレーニングでもありません。
速く歩く時間と身体を回復させる時間を組み合わせ、自分の体力に合った負荷をつくる方法です。
基本は「3分ゆっくり+3分速歩」
研究で用いられてきた代表的な方法は、次のとおりです。
- 3分間、ゆっくり歩く
- 3分間、速歩する
- この組み合わせを5回繰り返す
- 合計30分を週4日以上行う
ここで注意したいのが、「速歩」の意味です。
研究では、速歩を「歩行時に測定した個人の最高酸素摂取量の70%以上」、ゆっくり歩きを40%程度以下に設定しています。
つまり、全員が同じ時速で歩く運動ではありません。
運動習慣のある人と、ほとんど歩いていない人では、適切な速度が異なります。
また、「30分を週4日」は効果を検証した研究上の条件であり、初日から必ず達成しなければならないノルマではありません。
厚生労働省も、身体活動は個人差を踏まえて調整し、今より少しでも多く身体を動かすことを推奨しています。
速歩は「全力」ではない
速度計や心拍計がなくても、呼吸や会話のしやすさから運動強度を判断できます。
ゆっくり歩いている時間は、呼吸が落ち着き、会話を無理なく続けられる程度です。
速歩の時間は、息が弾み、長い会話はしづらいものの、短い受け答えはできる程度を目安にします。
数語も話せないほど息が苦しい、姿勢が崩れる、膝や腰に痛みが出る場合は、今の身体に対して負荷が強すぎます。
「速歩だから大股にしなければならない」と考える必要もありません。
視線を前に向け、上半身を起こし、肩の力を抜きます。歩幅は無理のない範囲で少しだけ広げ、腕を前へ大きく振るより、肘を後ろへ引くことを意識します。
速さよりも、痛みなく姿勢を保てることを優先してください。
研究ではどのような効果が確認されたのか
2007年に報告された5か月間の比較試験では、平均年齢63歳の男女246人を、運動を行わないグループ、一定速度で歩くグループ、インターバル速歩を行うグループに分けて検証しました。
目標を達成したインターバル速歩のグループでは、次の変化が確認されています。
- 膝を伸ばす筋力:約13%向上
- 膝を曲げる筋力:約17%向上
- 自転車運動で測定した最高酸素摂取量:約8%向上
- 歩行で測定した最高酸素摂取量:約9%向上
- 安静時の収縮期血圧も、一定速度で歩いたグループより大きく低下
ただし、これらは研究参加者における平均的な変化です。
インターバル速歩を行えば、すべての人の筋力や血圧が同じ割合で改善するという意味ではありません。もとの体力、実施量、食事、服薬、疾患の状態などによって結果は変わります。
また、ストレスや睡眠については、一般的な身体活動による好影響が期待されますが、「3分+3分」という方法だけに固有の効果としては、筋力・持久力・血圧ほど直接的な根拠は揃っていません。
「これだけ行えば、あらゆる健康問題が改善する」という運動ではないことも理解しておく必要があります。
初心者は短縮版から始めてよい
運動習慣がない人が、いきなり30分を週4日行う必要はありません。
最初の1週間は、次の方法から始めます。
- 5分間ゆっくり歩き、身体を温める
- 1分速歩+2分ゆっくりを3回
- 最後に5分間ゆっくり歩く
- 週2〜3回から開始する
翌日まで強い疲労や痛みが残らなければ、速歩を2分に延ばします。
その後、「2分速歩+2分ゆっくり」を3〜4回行い、身体が慣れてから「3分速歩+3分ゆっくり」へ進みます。
この短縮版は、研究で用いられた標準プログラムそのものではありません。運動に慣れるための現実的な導入方法です。
できなかった回数を取り戻そうとして、翌日に急に運動量を増やす必要はありません。
始める前に確認したいこと
次に当てはまる場合は、自己判断で速歩の強度を上げず、主治医や運動指導の専門職へ相談してください。
- 心臓、血管、呼吸器の病気で治療中
- 血圧や血糖が安定していない
- 運動中に胸痛、失神、強い息切れ、動悸を経験したことがある
- 最近の入院、手術、けががある
- 膝、股関節、腰の痛みによって歩き方が変わっている
- 転倒への不安が強い
- 医師から運動制限を受けている
歩行中に胸の圧迫感、冷や汗、強い息苦しさ、めまい、ふらつき、急な動悸などが出た場合は、直ちに運動を中止してください。
症状が強い場合や安静にしても続く場合は、救急要請を含む適切な対応が必要です。
暑い時期は、運動強度より先に環境を確認します。
環境省の指針では、暑さ指数(WBGT)が28以上31未満の場合は激しい運動を避け、31以上では運動を原則中止としています。
真夏は早朝であっても安全とは限りません。暑さ指数を確認し、必要に応じて冷房の効いた屋内歩行へ切り替えてください。
「歩数か、速歩か」の二者択一ではない
インターバル速歩の価値は、短い時間だけ負荷を上げ、その後に回復できることです。
30分間ずっと速く歩けない人でも、1分や3分なら取り組める可能性があります。
ただし、歩数を増やすこととインターバル速歩は、どちらか一方を選ぶものではありません。
日常生活の中で歩く時間を確保し、その一部に速歩を取り入れる。高齢者であれば、さらに筋力、バランス、柔軟性を含む運動も組み合わせる。
この方法のほうが、現実的で長く続けやすいでしょう。
理学療法士として10年間、臨床に携わった経験から感じるのは、効果が高そうな運動よりも、痛みなく翌週も続けられる運動のほうが強いということです。
最初の目標は30分ではありません。
まずは平らで安全な道を選び、「1分速歩+2分ゆっくり」を3回。
速歩を行った回数、その日のきつさ、翌日の痛みを確認し、問題がなければ少しずつ増やしてください。
速く歩く時間と、ゆっくり戻す時間。
その両方を味方につけることが、無理なく運動を続ける第一歩になります。
参考資料:
※本記事は一般的な健康情報を提供するもので、個別の診断・治療・運動処方を目的としたものではありません。
