「体調が悪いから、まずAIに聞く」時代に必要なのは、AIを禁止することではない

AI・医療動向
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体調が悪くなったとき、あなたは最初に何をするでしょうか。

体温を測る。
家族に相談する。
インターネットで症状を検索する。
医療機関を受診する。

そこに今、新しい選択肢として「AIに相談する」が加わっています。

塩野義製薬が2026年7月に実施した調査では、この1年以内に風邪症状についてAIに相談した経験のある20〜60代の男女1,000人に対し、風邪症状を感じたとき最初にとる行動を尋ねています。

最も多かったのは、ChatGPTやGeminiなどの「AIに相談する」31.5%。
「熱を測る」の22.3%を上回りました。 

これは、生成AIが仕事や学習を支援するツールだけではなく、私たちの健康に関する意思決定にも入り始めていることを示す興味深い結果です。

AIの回答が「受診するかどうか」に影響する

さらに注目したいのが、AIから提示された情報と、その後の受診行動です。

AIに相談した人のうち、

  • 62.1%が「風邪」
  • 30.6%が「インフルエンザ」
  • 21.5%が「新型コロナ」

の可能性を提示された経験があると回答しています。

しかし実際に医療機関を受診した割合は、「風邪」と提示された人で20.6%、「インフルエンザ」で38.2%、「新型コロナ」で37.2%でした。 

もちろん、この数字だけから「AIが原因で受診しなかった」と因果関係を断定することはできません。

ただし、AIの回答が人間の意思決定に関与する可能性については考える必要があります。

実際、調査対象となった医師100人の68%が、AIは患者の受診行動に影響していると回答しています。

さらに58.8%が「AIの情報をもとに自分の状態を自己判断する人がいる」と回答しました。 

問題は「AIに相談すること」なのか

ここで、

「だから医療についてAIに相談するべきではない」

と結論づけてしまうのは早計です。

同じ調査では、医師の74%が生活者が体調管理でAIに相談すること自体は有効と回答しています。

一方で88%が「AIの意見をうのみにせず参考程度にしてほしい」と回答しました。 

つまり問題の本質は、

AIを使うか、使わないか

ではありません。

AIに何を任せるのか

という役割分担です。

「情報整理」と「医療判断」は分けて考える

生成AIが得意なのは、情報を整理したり、質問を構造化したりすることです。

例えば、

「受診するとしたら、どの診療科が候補になる?」
「医師に症状を説明するとき、何を整理しておけばいい?」
「一般的に注意すべき症状にはどんなものがある?」

こうした使い方であれば、AIを情報整理の補助として利用できます。

一方、

「私は○○病ですか?」
「病院に行かなくても大丈夫ですか?」
「この薬を飲めば治りますか?」

となると意味が変わります。

今回の調査でも、医師の84%が、感染症は似た症状が多いため、種類や重症度をAIへの相談だけで正確に判断するのは難しいと回答しています。

また「薬を飲むかどうかの判断に使う」は64%、「疾患の自己判断のために使う」は61%の医師が望ましくないと回答しました。 

AIには身体診察もできませんし、入力されていない情報を確認することもできません。

だからこそ、

情報を整理するAIと
診断・治療を担う医療専門職

を混同しないことが重要になります。

これから必要なのは「AIを使わせない教育」ではない

生成AIの利用が広がるほど、医療機関側にも新しい課題が生まれます。

患者がAIを使わないことを前提にするのではなく、

「患者は受診前にAIへ相談しているかもしれない」

という前提で医療コミュニケーションを考える必要が出てくるでしょう。

そして患者側にも、

AIに相談することと、
AIに判断を任せることは違う。

というリテラシーが必要になります。

生成AIを医療から遠ざけることだけが安全対策ではありません。

むしろ、

何をAIに任せてよいのか。
何を人間が判断しなければならないのか。

その境界線を設計すること。

AIが生活の中に当たり前に存在する時代だからこそ、この考え方がますます重要になっていくのではないでしょうか。


参考
塩野義製薬「全国の生活者と医師に聞く、風邪症状時のAI利用と医療受診に関する調査結果」