膝OAのリハビリで「運動+痛み教育」をどう考えるか ― 神経筋運動とPain Neuroscience Educationを組み合わせた研究計画から考える ― 膝OA(変形性膝関節症)のリハビリでは、筋力やバランス、動作能力といった身体機能への介入が重要です。 一方、臨床では「痛いから動かさないほうがよいのではないか」「動くと膝がさらに悪くなるのではないか」といった不安や、痛みへの恐怖が活動に影響している場面にも出会います。 では、身体機能への運動療法と、痛みについての理解を支援する教育を組み合わせることには、どのような意味があるのでしょうか。 今回取り上げるのは、膝OAの高齢女性を対象に、包括的な神経筋運動とPain Neuroscience Education(PNE)を組み合わせる介入を検討したランダム化比較試験のプロトコルです。 ここで最初に押さえておきたいのは、この論文は「介入の効果が証明された研究結果」ではなく、これから効果を評価するための研究計画を示したstudy protocolであるという点です。 そのため、「運動+PNEのほうが優れている」と結論づけるのではなく、どのような問題意識から介入が設計され、何を評価しようとしているのかを読むことが重要です。
■ この研究が考えているのは「身体機能だけで十分か」という問い
今回の研究で特徴的なのは、膝OAへの介入を筋力だけの問題として捉えていないことです。研究では、従来の神経筋運動が筋力やバランスなど一部の要素に重点を置きやすいことを背景として、より包括的に ・体幹の安定性 ・バランス ・下肢筋力 ・神経筋機能 などを扱う運動プログラムが想定されています。 さらに、そこへPain Neuroscience Education、いわゆるPNEを組み合わせています。 PNEでは、痛みを組織の状態だけで単純に説明するのではなく、痛みが身体的要因だけでなく心理的・社会的要因などとも関係する多面的な体験であることを理解できるよう支援していきます。 つまり今回の研究は、 「身体を動かせるようにすること」 だけではなく、 「痛みをどのように理解し、どのように動くか」 まで含めて介入を設計しようとしている点がポイントです。
■ PNEは「痛みは気にしなくてよい」と伝える教育ではない
PNEという言葉から、「痛みについて説明すればよい」「痛みを怖がらないよう説得するもの」と受け取ってしまうと、本来の意図から外れてしまいます。重要なのは、患者さんが持っている痛みに対する理解や不安を確認しながら、痛みを多面的に捉えるための情報を提供していくことです。 例えば膝OAでは、画像上の変化や「軟骨が減っている」という説明から、 「動けばさらに壊れるのではないか」 という認識につながることがあります。 そこで医療者が考えたいのは、単に「大丈夫です」と説明することではありません。 患者さんが何を不安に感じているのか。 痛みをどのように捉えているのか。 その認識が活動量や運動への参加に影響していないか。 こうした点まで含めて評価する必要があります。 PNEは運動療法の代わりではなく、運動へ取り組むための理解や行動を支える要素の一つとして考えるほうが、この研究の意図を捉えやすいでしょう。
■ この研究は何を評価しようとしているのか
この研究ではランダム化比較試験として、神経筋運動とPNEを組み合わせた介入を通常ケアと比較する計画が示されています。 主要評価項目はVASによる膝痛です。 また、評価者と統計解析者を群分けから盲検化する設計が採用されています。 ここから読み取れる重要な点があります。 研究者が見ているのは、「運動メニューを実施できたか」だけではありません。 膝OAのマネジメントを考えるうえで、痛みや身体機能だけではなく、運動への恐怖など心理社会的な側面も含めて検討しようとしていることです。 臨床でも同様に、運動の回数や負荷量だけを確認して終わるのではなく、 「その人はなぜ動けないのか」 という問いを持つことが重要になります。
■ 現場で考えるべき論点1 運動処方の前に
「動けない理由」を整理できているか 同じ膝OAでも、活動が制限されている理由は一様ではありません。 筋力低下が強い人もいれば、バランス能力の低下が大きい人もいます。 一方で、身体能力そのものだけではなく、 「この動きをすると膝が悪くなりそう」 という不安が活動を制限している可能性もあります。 そのため、運動プログラムを組む前に、 身体機能の問題なのか 痛みそのものの問題なのか 痛みに対する認識や恐怖が関係しているのか を整理する視点が必要です。 PNEを取り入れるかどうか以前に、この評価視点そのものが臨床では重要になります。
■ 現場で考えるべき論点2 教育を「説明した」で終わらせない
患者教育では、医療者が正しい情報を伝えることに意識が向きがちです。 しかし、情報を伝えたことと、患者さんの理解や行動が変わったことは同じではありません。 「動いてもよいと説明した」 だけではなく、 説明をどう受け止めたのか 運動への不安は変化したのか 実際の活動につながっているのか まで確認する必要があります。 教育を一方向の情報提供ではなく、運動を実行するための支援として設計する。 今回の研究プロトコルからは、そのような視点を読み取ることができます。
■ 現場で考えるべき論点3 「運動+教育」をセット化すればよいわけではない

今回の研究から、すべての膝OA患者にPNEを追加すべきだと結論づけることはできません。 重要なのは、 誰に どのような説明を どのタイミングで どの程度行うのか という個別性です。 患者さんが抱えている問題が主に筋力低下である場合と、強い運動恐怖が活動を制限している場合では、必要な支援の比重も異なる可能性があります。 「PNEを実施したかどうか」を目的にするのではなく、患者さんの評価結果から必要性を考えることが重要です。
■ 注意点・限界 今回の論文を臨床へ応用する際には、いくつか注意が必要です。
第一に、この論文はstudy protocolです。 研究計画が提示されている段階であり、この論文そのものから介入効果を確定することはできません。 「神経筋運動とPNEを組み合わせれば膝痛や機能が改善する」と断定するのは適切ではありません。 第二に、対象は膝OAを有する高齢女性です。 年齢、性別、病態、身体機能などが異なる患者へ、そのまま一般化できるとは限りません。 第三に、教育と運動を組み合わせた介入では、患者本人や介入を行う医療者を完全に盲検化することは困難です。 評価者や統計解析者を盲検化する設計が採用されていても、非薬物介入特有の限界を踏まえて結果を読む必要があります。 そして最も重要なのは、PNEが診断や個別の医学的判断を置き換えるものではないことです。 症状、病態、身体機能、生活背景などを評価したうえで、必要な介入を判断するという基本は変わりません。
■ まとめ 今回の研究プロトコルが示しているのは、「膝OAにはこの方法が効く」という確定的な答えではありません。
むしろ注目したいのは、 身体機能への運動 痛みに対する理解 運動への恐怖や心理的要因 を別々の問題として切り離さず、組み合わせて評価・介入しようとしている点です。 膝OA患者を前にしたとき、 「どの運動を処方するか」 だけでなく、 「この人は、なぜ動けなくなっているのか」 まで考える。 運動療法と患者教育をつなげて考えるうえで、この視点は臨床を振り返る一つの材料になるでしょう。 ただし、今回の原典はあくまでRCTのプロトコルです。 今後報告される研究結果を確認し、実際に疼痛や機能、運動への恐怖などへどのような影響がみられたのかを評価したうえで、臨床への適用可能性を考えていく必要があります。
参考原典 Saki F, Ramezani F, Eizadi S, et al. Neuromuscular exercise combined with pain neuroscience education for knee osteoarthritis management in older women: protocol for a randomized controlled trial. Journal of Orthopaedic Surgery and Research. 2026. DOI: 10.1186/s13018-026-06973-3


コメント