高齢者の服薬管理を「飲めているか」だけで終わらせない―安全性・有効性・継続を多職種で考えるSEAモデル

臨床・専門記事
高齢者の服薬管理を「飲めているか」だけで終わらせない
―安全性・有効性・継続を多職種で考えるSEAモデル

高齢者の服薬管理というと、「薬の数が多すぎないか」「指示どおり飲めているか」といった確認が中心になりがちです。

しかし、実際の服薬には、認知機能、生活環境、経済的負担、通院や受診のしやすさ、家族からの支援、薬に対する不安、処方した医療機関同士の連携など、多くの要因が関係します。

薬剤管理を本人の注意力や自己管理能力だけの問題として捉えると、現場で起きている課題の一部しか見えない可能性があります。

今回取り上げるのは、2025年に公表された「Enhancing primary care for older adults: the safety, efficacy, and adherence(SEA)team-based care model to reduce adverse medication outcomes」です。

この論文が提案するSEAモデルは、高齢者の服薬を次の3つの観点から整理します。

・Safety:安全性
・Efficacy:有効性
・Adherence:服薬継続・実行可能性

重要なのは、この3項目を別々に確認するのではなく、多職種による継続的な評価の流れとして捉えている点です。

■主役となる論文は何を提案しているのか

SEAモデルでは、薬剤師、プライマリケアを担う医師、看護師、行動・心理面を支援する職種、ケアマネジメントを担う職種、患者本人や家族などが、それぞれの役割から薬剤管理に関与することを想定しています。

たとえば、安全性の確認では、重複処方、薬剤有害事象の可能性、高齢者で注意が必要な薬剤、転倒や認知機能への影響などを検討します。

有効性の確認では、処方されている薬が、現在の治療目標や本人の生活上の目標に合っているかを考えます。

服薬継続の確認では、単に「飲み忘れていないか」を尋ねるだけではなく、処方内容の複雑さ、理解度、認知面、心理的抵抗、経済状況、移動手段、家族や地域の支援なども含めて評価します。

つまりSEAモデルは、服薬管理を薬剤単体の問題ではなく、患者の身体・心理・生活と医療提供体制を含むシステム上の問題として整理しています。

■この論文から学べる最も重要な点

この論文から得られる実務上の示唆は、「服薬できない理由を患者側だけに求めない」ということです。

服薬が継続できていないとき、現場では次のような表現が使われることがあります。

「自己管理ができていない」
「薬への理解が不足している」
「指示を守っていない」

もちろん、理解度や認知機能を確認する必要はあります。しかし、その背景に次のような問題が隠れている可能性もあります。

・処方が複雑で、日常生活の中では実行しにくい
・複数の医療機関から処方され、全体像が共有されていない
・副作用への不安があるが、相談する機会がない
・薬を減らしたいという希望を伝えられていない
・経済面や移動手段の問題で、受診や薬の受け取りが難しい
・家族を含めた支援体制が整っていない
・服薬後の変化が、期待した効果なのか有害事象なのか整理されていない

SEAモデルは、こうした要因をチームで共有し、安全性・有効性・継続可能性を同時に検討するための枠組みと考えられます。

■現場で考えるべき4つの論点

1.薬の数ではなく「適切性」を見ているか

薬剤数が多いことだけを理由に、問題のある処方と判断することはできません。

複数の薬が必要な患者もいれば、薬剤数が少なくても重複、相互作用、投与量、服用方法などに確認が必要な場合もあります。

必要なのは、単純な薬剤数の削減ではなく、「現在の患者にとって、それぞれの薬を継続する理由と負担が釣り合っているか」という検討です。

2.処方開始後の評価が共有されているか

薬を開始した理由が明確でも、その後の効果や有害事象が十分に共有されていなければ、漫然と継続される可能性があります。

現場では、次の情報が職種間で共有できているかを確認する必要があります。

・何を目的に開始された薬か
・期待した変化が得られているか
・日常生活や活動性に変化がないか
・眠気、ふらつき、食欲低下、便通変化などがないか
・本人は継続をどのように受け止めているか
・次に評価する時期と担当者が決まっているか

こうした情報は、薬剤師や医師だけでなく、患者の日常を観察する看護師、リハビリテーション職、介護職などから得られることもあります。

3.「飲めない」のか「飲まない」のかを決めつけていないか

服薬状況が安定しない場合、認知機能、手指機能、視力、生活リズム、食事、嚥下、薬に対する考え方など、複数の背景を分けて確認する必要があります。

本人が意図的に服用していない場合にも、単なる拒否ではなく、副作用への不安、効果への疑問、過去の経験、家族との意見の相違などが影響している可能性があります。

服薬状況の確認は、守れているかを評価するだけでなく、「その処方を現実の生活で実行できるか」を共同で検討する機会と考えられます。

4.誰が問題を見つけ、誰がつなぐのか

多職種連携では、全員が同じ判断を行う必要はありません。

むしろ重要なのは、それぞれの職種が気づいた変化を、適切な担当者へ確実につなぐ仕組みです。

たとえば、リハビリテーション中の眠気やふらつき、訪問時に確認された残薬、家族から聞かれた服薬への不安などは、処方変更を直接判断する材料ではなくても、薬剤師や医師による評価につなぐ重要な情報になり得ます。

「誰かが気づくだろう」ではなく、「誰が確認し、誰へ共有し、いつ再評価するか」まで定めることが、チームによる薬剤管理では重要です。

■関連候補による補足1:ポリファーマシーへの対応に単一の正解はない

関連候補である「Polypharmacy Management in the Older Adults: A Scoping Review of Available Interventions」では、高齢者のポリファーマシー管理に用いられる複数の介入が整理されています。

薬剤レビュー、STOPP/STARTやBeers Criteriaなどの明示的基準、臨床判断を含む評価、多職種による介入などが検討されていますが、すべての患者や現場に共通する「ゴールドスタンダード」は確認されていません。

これは、薬剤管理の方法を一つのチェックリストだけに委ねるのではなく、患者の状態、診療環境、利用できる人員や時間に応じて選択する必要があることを示しています。

■関連候補による補足2:明示的基準は「判断支援」である

STOPP/START、Beers Criteria、FORTAなどの明示的基準は、高齢者で注意すべき薬剤や処方上の論点を見つける助けになります。

一方で、基準に該当したことだけを理由に、薬剤が不適切である、または中止すべきであると決めることはできません。

適応、投与量、治療目標、既往歴、腎機能や肝機能、本人の価値観、代替手段、中止に伴う影響などを含めた個別評価が必要です。

明示的基準は、臨床判断を置き換えるものではなく、見落としを減らして対話を始めるための道具として位置づける必要があります。

■関連候補による補足3:睡眠も服薬継続を考える手がかりになり得る

「Sleep Quality and Medication Adherence in Older Adults: A Systematic Review」では、高齢者における睡眠の質と服薬継続との関連が検討されています。

このレビューは、睡眠状態が服薬継続と関連する可能性を示していますが、含まれる研究数や研究方法には限界があり、睡眠不良が服薬不良を直接引き起こすと断定することはできません。

現場では、服薬状況が安定しない患者について、睡眠時間、昼夜逆転、日中の眠気、服薬時刻との関係などを確認することが、背景理解の一つになる可能性があります。

ただし、これはSEAモデルそのものの効果を示す情報ではなく、服薬継続を生活全体から考えるための補助的な視点です。

■この論文を読む際の注意点と限界

SEAモデルの論文は、実際の患者を対象として介入効果を検証したランダム化比較試験ではありません。

モデルは、2000年から2024年までの文献やガイドラインを基にした構造化された非系統的レビューから構築されています。また、論文中に示される一部の導入後アウトカムは、実測値ではなく説明用に作成されたシミュレーションです。

したがって、この論文から「SEAモデルによって有害事象や入院が減少する」と確定的に結論づけることはできません。

実装には、薬剤師などの人員、チームで検討する時間、情報共有の仕組み、組織的な支援が必要です。人員や情報基盤が異なる施設へ、そのまま導入できるとは限りません。

また、海外のプライマリケアを前提としたモデルであり、日本の医療制度、職種配置、診療報酬、処方・調剤の分業体制に適用する際には調整が必要です。

■個人情報と医療判断に関する注意

薬剤管理について学習・整理する際も、患者氏名、患者番号、生年月日、施設固有情報などを、一般向けAIや承認されていない外部サービスへ入力してはいけません。

また、この記事や紹介した評価枠組みは、診断、処方変更、減薬、中止の可否を判断するものではありません。

実際の薬剤調整は、患者ごとの臨床情報と本人の希望を踏まえ、医師・薬剤師を含む関係職種が個別に検討する必要があります。

■まとめ

SEAモデルが提示しているのは、新しい薬剤評価ツールというよりも、高齢者の服薬をチームで考えるための整理方法です。

安全性に問題はないか。
現在も期待する効果が得られているか。
本人の生活の中で継続できる内容になっているか。

この3つを同時に確認することで、薬剤数や飲み忘れだけでは見えなかった課題が見つかる可能性があります。

一方で、SEAモデル自体の臨床的な効果は、今後の実証研究を待つ段階です。

現場で直ちに応用できるのは、SEAモデルを完成された介入法として導入することではなく、薬剤管理について話し合う際の共通の問いとして活用することではないでしょうか。

【根拠の位置づけ】

主な根拠:
Changaris M. Enhancing primary care for older adults: the safety, efficacy, and adherence(SEA)team-based care model to reduce adverse medication outcomes. Front Public Health. 2025;13:1453485.
doi: 10.3389/fpubh.2025.1453485

補助的な根拠:
Kurczewska-Michalak M, et al. Polypharmacy Management in the Older Adults: A Scoping Review of Available Interventions. Front Pharmacol. 2021;12:734045.
doi: 10.3389/fphar.2021.734045

Amato L, et al. Sleep Quality and Medication Adherence in Older Adults: A Systematic Review. Clocks & Sleep. 2024;6:488-498.
doi: 10.3390/clockssleep6030032

Curtin D, Gallagher PF, O’Mahony D. Explicit criteria as clinical tools to minimize inappropriate medication use and its consequences. Ther Adv Drug Saf. 2019;10:2042098619829431.
doi: 10.1177/2042098619829431

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